http://mainichi.jp/articles/20160222/ddl/k22/070/004000c

電柱との遭遇 /静岡

毎日新聞2016年2月22日 地方版

    静岡県

 電柱という存在を意識したのは高校1年の時だった。試験勉強で寝不足だったためか、自転車で通学中に一瞬意識を失い、電柱に接触、転倒した。けがはなかったが、電柱がなければ脇を走る車と衝突したかもしれない。電柱は「命の恩人」だったが、車を運転するようになり評価は一変する。電柱を避ける自転車やバイクがはみだし、道幅も狭くなって渋滞する。「ヒヤリ」と「イライラ」が募った。

 1995年の阪神大震災では、倒れた電柱のために緊急車両の通行が妨げられて大きな問題になった。空を横切る電線は景観も損なう。有識者らでつくる「無電柱化民間プロジェクト」は、ホームページで葛飾北斎の「富嶽三十六景」に電柱・電線を重ねて改善を呼びかけている。確かに富士山を撮影しようとした際、電柱が入るのを避けられず、落胆する機会は多い。

 今月1日、県内の約10市を含む全国200以上の首長でつくる「無電柱化を推進する市区町村長の会」が首相官邸を訪ね、安倍晋三首相に電線地中化事業などへの財政支援を求めた。

 同じ日に静岡市は、富士山を望む「三保街道」を横切る最後の電線を撤去した。この事業は昨年2月から始まり、約1・5キロ区間の電線126本が撤去された。経費は約7000万円。今後は無電柱化を期待したいが、コストは膨らむ。担当者は「これで富士山の眺望をより楽しんでもらえると思うが、市の財政が厳しいのも事実」と語る。

 国土交通省が無電柱化の低コスト化技術を検討するなど、国も対策に本腰を入れ始めた。「無電柱革命」(小池百合子、松原隆一郎著)によると、全国の電柱の本数は桜の木とほぼ同じ約3500万本に達しているという。電柱の設置に限らず、安易に継続したり行動したりすることがいかに危ういか。改めて考えさせられている。【静岡支局長・田中泰義】

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